トップページ > トピックス
- 5. 日本企業の今後の課題
-
5.1. 今後のあるべき対応手順-泥縄式ではまた決算現場が地獄を見る
実際にIFRSsを適用する場合には、以下の4つのステップで対応することになると思います。
① IFRSsの理解
IASBとFASBの協議でIFRSsはまだまだ変わっていくから、今のIFRSsを勉強して理解しても意味がないと考えられる方も多いと思います。しかし、これではいつまでたってもスタートが切れませんし、きりのない話です。IASBとFASBの協議が完了しても、今後IFRSsは変わり続けるのですから。
② FIT/GAP分析
①でIFRSsの理解が一通りできたら、次は、自社が採用してきた会計処理の原則や手続きが、IFRSsとどのように違っているかを洗い出さなければなりません。
まずは、洗い出すことに専念して、違いについてどうするかは、次のステップで検討することをお勧めします。
なぜなら、今後どうするかを検討し始めたら、そこで作業がストップして、洗い出し作業が網羅的にできず、スケジュールが早い段階で破たんしやすいからです。
③ 会計方針や業務の改善内容の検討
IFRSsと自社の会計処理の原則・手続きとの差異が洗い出されたら、自社でIFRSsを適用することを前提に、IFRSsの個別の会計基準をどのように適用するかを、具体的に決めていく必要があります。
特に、重要性の判断基準をどうするか、選択適用が認められている処理のどれを採用するか、といったことについて、IFRSsにはほとんどといって良いほど具体的な基準が明示されていないので、まずは経理部門内で整理して、これまでの決算数値との比較や影響をまとめ、経営者に説明する必要があるでしょう。
経営者の説明も、大変な困難を伴うと予想されます。公認会計士でも理解が難しいIFRSsの会計基準を、自社の数値を使って、経営者に説明するのですから、かなりの工数を覚悟しておくべきです。
実際にIFRSsのある会計基準を採用すると想定した場合に、前述したように、売上の計上、棚卸資産での後入先出法の廃止・低価法強制適用、減損会計・リース会計・減価償却などへの影響、開発費の費用計上などが関連します。
したがって、経理業務だけでなく、販売業務、在庫管理業務、固定資産管理業務、資金管理業務などへの影響も検討し、子会社をも視野に入れて、グループ全体の負荷が最小限になり、かつ適切な開示ができるような業務フローや体制を整備し、運用する必要があります。
場合によっては、グループ内での経理業務アウトソーシングや業務代行などが効果的になるケースも増えてくると思います。
また、経理規程をはじめとして、各種業務規程や業務マニュアルも適切に修正・改編しないと、それまでの文書が役に立たなくなってしまいます。
結局、経営トップ、特に社長を巻き込んで、IFRSsへの理解と、グループ全体を視野に入れたプロジェクト体制を早急に立ち上げて対応を図ることが望まれます。
そうしないと、2000年の連結中心への会計ビッグバンとか、内部統制監査対応とは比較にならないほどの混乱が発生することが目に見えています。
なぜなら、一部の制度改正というものではなく、基準そのものが、自国で使い続けたものから、他国で使われているものをそっくりそのまま使うことになるからです。
これは、「日本人はこれから、普段の会話でもすべて英語でしゃべれ」といわれているようなものなのです。
④ システム対応
③の会計方針や業務の改善をすると、システムについてもそのままというわけにはいかなくなるケースが多々発生すると思われます。
企業によっては販売システムや固定資産管理システムなど、広範囲のシステムの改善が必要になることが予想されます。
グループ内での経理業務アウトソーシングを検討する場合には、会計システムの統一・シェアード化も有効だと思います。
また、連結対象会社ごとに異なる、複数の会計システムの下流に、グループ全体の仕訳明細データを集積する、「グループ統合仕訳データベース」を構築し、二重帳簿対応、遡及対応、さらに事業セグメント対応などを行うことも有効と思います。
いずれにしても、上記ステップをいつまでに完了するか、きちんとスケジュールをきって、グループ全体で対応すべきプロジェクトとして、経営トップ主導で推し進めていかないと、結局IFRSs一斉適用となった年度には、経理部門がまた地獄をみることになってしまいます。
したがって、検討のスタートは、いくら早くても早すぎることはないと思います。
特に、最近の経理・決算の現場では、会計制度も難易度が増し、四半期報告書対応による決算早期化、内部統制監査対応などで、課題が山積となっていると同時に、熟練者の退職による経理スタッフのスキルレベルの低下も問題となっていますので、早めに対応し、十分な時間をもって、ジョブ・ローテーションを早く開始することが有効と思います。
5.2. 財務分析指標への影響
これまで説明してきたように、財務諸表のいろいろな勘定科目の数値が大きく変わることが予想されます。
となると、財務諸表の数値を使って分析してきた、株主、アナリスト、新聞記者なども、IFRSsを十分に理解する必要があります。
やっかいなことに、これまでと同じ勘定科目の名前を使うけれども、その計算の前提となる会計基準が変わるからです。
たとえば、損益計算書の一番上に表示される売上高も、IFRSs適用となると、これまでの出荷基準ではなく、引渡日や検収日での計上となります。
また、営業利益も、売上高から売上原価、販売費や管理費などを引いて計算するのですが、売上原価、販売費や管理費に含める減価償却費の計算も、従来の税法の耐用年数表ではなく、個々の物件の利用実態に合わせた耐用年数で計算するため、大きく異なる金額になる可能性が高いと思います。
したがって、売上営業利益率といった、非常にポピュラーな財務分析指標はこれまでとは違った結果になると思います。
こんなのはほんの一例で、従来の財務分析指標の、ありとあらゆるものに、非常に大きなインパクトがあると思います。
また、同じ経営分析指標も、会計基準を適用するための会計方針を企業によって、それぞれの判断で決めた結果になるため、ただ単に経営分析指標を上っ面な計算で利用するのではなく、その裏側にある、各社の会計方針を理解した上で使いこなさなければならないのです。
5.3. 管理会計の見直し
前項で説明したように、従来から利用されている財務分析指標にもインパクトがあるということは、企業経営者が経営を行う上で利用する経営指標にも、当然のことながらインパクトがあるのです。
経営指標は、その企業が効率的に経営を行う上で利用するものですから、企業によって有効な指標は異なります。
しかし、いかなる企業であっても、結局のところ、経営指標の元になるデータは、財務諸表の数値がほとんどであり、その財務諸表の数値が会計基準の根本的な変更によって大きく変わるのです。
そこで、今後の管理会計で利用する数値について、きちんと検討しておくことが必要になると思います。
管理会計や連結経営管理での論点は、従来の「連結経営管理」の内容に加えて、経営管理で作成する財務諸表もIFRSsを適用して作成し、利用するのか(制管一致)、または、制度上はIFRSsを適用して財務諸表を作成するが経営管理用の財務諸表は従来通りで変えないのか(制管不一致)といった切り口についても、きちんと決めておく必要があるでしょう。
そうしないと、普段社長や役員が経営上利用している財務数値と、決算発表で外部に公表した財務数値が異なり、その違いについて十分に説明できなくなったり、説明するための作業がとても煩雑になるなどの問題が、またまた経理・決算部門に頻発してしまうことが予想されます。
このコラムは、弊社IFRS担当ディレクター中田清穂の著書『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)を一部編集したものです。


